フィクサー・メリーズ Part1~11と警官の山崎1~3
【現場に急行!新人山崎】
「全員動くな
山崎、その女調べろ」
「ハイッ!」
「なんですか?」
「右手に持っているもの
それは何ですか?」
「ハトムギ茶です」
「沢村警部!
ハトムギ茶だそうです」
「山崎!騙されるんじゃねぇ!
それはブツだ!さっさと調べろ!」
「ハイッ!
あの、すみませんが
では、そのブツを渡してもらえますか?」
「かわいい刑事さんね
いいわ、渡してあげる」
「本当ですか?
ありがとうございます!」
「そのかわり・・・」
「何をするんですか?
やめてくださいよ。。。
恥ずかしいじゃないですか。。」
「いいからそのまま。
よく聞いて。
私と逃げるのよ」
「逃げる???
どうしてボクが」
「あんたと一緒に来た沢村
アイツが真犯人よ」
「!!!!」
「撃って!」
つづく
【現場に急行!新人山崎 Part2】
「悲しまないで
あなたは正しい事をしたの」
「沢村先輩がキミを撃とうとした
だからボクは」
「分かってる
ありがとうね、山崎さん」
「とにかく署に戻ろう
戻って状況説明を」
「今はダメ」
「だけどこのままじゃ・・・」
「お願い、
もう少しだけ一緒にいてちょうだい」
「・・・・
キミの名前は?
沢村先輩とはどこで知り合ったの?」
「ちょうど3年前の冬だった
アタシが働いてるお店に
あの人が来たの」
「いらっしゃいませ」
「あいつ、いるか?」
「ご指名です」
「はぁい」
もう少しつづく
【現場に急行!新人山崎 Part3】
「沢村さん」
「ちゃんと働いてるようだな」
「刑事がこんなお店に来ていいの?」
「別に法に触れちゃいねぇよ」
「なに呑みます?」
「ウィスキー」
「ストレートね?」
「ああ」
「どうぞ」
「おまえ、一人暮らしか?」
「そうだけど・・・泊めろとか言わないでよ」
「ガキに興味ねぇよ」
「だったら何よ」
「これ預かってくれ」
「なにこれ?」
「開けるな」
「だったら預からないわよ」
「お前の母親、いま、網走刑務所だろ」
「・・・・それが何よ・・」
「早く刑務所から出したいなら黙って預かるんだ。中身は開けずに。」
「山崎さん、話は終わりよ」
「ちょっと待ってよ。その預かったものがブツだったの?」
「違うわ」
「だったら沢村先輩はキミに何を預けたの?ブツじゃないなら、どうしてボクに沢村先輩を撃たせたりしたんだ!!!」
「山崎さん、迎えが来たわ。あなたのおかげで助かったわ。どうもありがとね。それとおやすみなさい」
ビリビリッ・・・
ドサッ・・・・
「お嬢様」
「遅いじゃないの」
「申し訳ありません」
「お父さまは?」
「それが網走刑務所に行ったきり、連絡が取れておりません・・・」
(つづく)
【フィクサーメリーズ part1】
「記事を差し止めてくれ」
「・・・・・」
「これは命令だ」
「私達には言論の自由があります」
「馬鹿に与える自由など無い」
「冗談じゃない!
アンタみたいな人間に屈してたまるか」
「もう一度だけ言う
記事を差し止めろ」
「断る!
さあ、今すぐ降ろしてくれ」
「君とは分かり合えないようだな。
残念だが仕方がない。
せめてものおわびに
君の自宅まで送らせてくれ」
「結構だ!
今すぐ降ろしてくれ!」
「黙って乗れ」
「さあ、着いたぞ」
「・・・・・」
「さあ、降りたまえ
愛する家族が待っているぞ」
「・・・・・」
「さっさと差し止めの手配をしろ!」
「ハイッ!」
「明日の朝刊
楽しみにしているぞ
じゃあな」
「ボス
次はどちらへ?」
「網走刑務所
そのあとはアカチャンホンポ」
【フィクサーメリーズ part2】
「すばらしい別荘じゃないか!」
「お褒め頂き光栄でございます」
「なんといっても
この素晴らしい眺望!
この街すべてを見下ろせる!」
「そうなんです
特に夜景は素晴らしい眺めで」
「なるほど
シャンパンでも呑みながら
この街を見下ろしているんだね
私が住む街を」
「・・・・・」
「それにしても
素晴らしい別荘だ」
「よろしければ!是非!
是非こちらの別荘をお使い下さい」
「貴様
私を馬鹿にしているのかね?
私は物乞いではない!!!!」
「失礼しました!
どうぞ、どうぞお許しを!」
「キツく言ってすまないね」
「いえ・・・」
「私はね、昔から
他人から借りるのが嫌いなんだよ」
「・・・・」
「じゃ、失礼するよ」
「出してくれ」
「会長
昼食はどうなさいますか?」
「いらん、そんなことより
リフォーム業者に連絡をしておけ」
「はい」
「あの壁紙はセンスが悪すぎる」
「会長
これからどちらに向かえば」
「アカチャンホンポへ」
「網走刑務所には
行かれないのですか?」
「余計なことを言うな!」
メリーズの瞳から
涙がこぼれた
【フィクサーメリーズ part3】
「会長、どちらへ?」
「今日の予定はすべてキャンセルしろ」
「経団連のパーティがございます」
「キャンセルしろ。同じことを言わせるな」
「網走に行かれるのですか?」
「・・・」
「お供します」
「一人でいい」
「奥さま、今日がお誕生日でしたね」
「あとは頼んだ」
「お気をつけて」
この地に降り立ったのは
何年ぶりだろう
気づかぬうちに足が遠のいた
何度も面会を拒否されるうちに
記憶が薄れて行くうちに
気づかぬうちに足が遠のいた
何十年ぶりに
手紙を書いた
また会えないとしても
この手紙を
手紙が落ちていく
雪の上に落ちていく
白と混ざり合う赤い色
手紙をお前に
【フィクサーメリーズ part4】
夢を見た
妻と幼い娘が
花に水をやっている
「パパー!」
娘が私を呼んでいる
庭に出た
ひとりの男が
木の影から飛び出した
一発目の銃声
右肩が弾けた
懐から落ちた銃を拾い上げた
二発目の銃声
体のどこかを貫いた
目の前が芝生になった
3発目の銃声
「会長」
「・・・・・」
「またあの時のことを?ひどくうなされていましたよ」
「ここは・・」
「札幌の病院です。網走刑務所の前で撃たれて」
「そうか・・・妻には・・・」
「もちろん、言っておりません」
「そうか」
「犯人はまだ捕まっておりません」
「そうか」
「腹部から取り出された銃弾から、犯人の割り出しはできたようです。先ほど、指名手配されました」
「・・・・誰だ」
「警察官 山崎純一です」
(つづく)
【フィクサーメリーズ part5】
「失礼します」
「なんだ」
「署長
面会を希望されている方が」
「名前は?」
「それが名乗りもせず
【山崎の件で話がある】
とおっしゃるばかりで」
「・・・・・
すぐに通せ」
「はい」
「第二会議室に通せ」
「かしこまりました」
「署長
元気そうじゃないか」
「会長もお元気そうで」
「山崎警部補は
見つかったのか?」
「・・・・」
「そうか、まだなんだな」
「申し訳ありません!
いま組織一丸となって捜索しております」
「いや、急がなくてもいい。
こうやって、私も生き延びたことだし」
「申し訳ございません」
「頭を上げなさい。
私と署長の仲じゃないか」
「もったいないお言葉。。」
「ところで
ひとつ頼みがあるんだけどね」
「何なりとお申し付けください」
「一人、刑務所に入れて欲しい
人間がいるんだ」
「だれでしょうか?」
「私だよ」
(つづく)
【フィクサーメリーズ part6】
山崎は
少しずつ
目を開いた
白い壁に覆われ
右腕は点滴に繋がれて
ベッドに寝ていた
「山崎、目が覚めたか?」
沢村刑事が座っていた
「沢村先輩・・・」
山崎は
沢村の体を見た
怪我をしている様子は無い。
「今から署長に連絡する。
何を聞かれても
【分かりません、覚えていません】
そう繰り返せ」
そう言うと
持っていたタバコを
そっと山崎に渡し
沢村は病室を出た。
その後
警察署長が来た。
青ざめた顔で
何度も怒鳴っていた。
「3日間もどこにいたんだ!」
「なぜフィクサー・メリーズを撃ったんだ!」
「誰が責任を取るんだ!」
山崎は
答えることが面倒になり
黙り続けた。
署長は何か言い残し
青ざめた顔のまま帰って行った。
山崎は
混乱した頭を整理するため
点滴を外し
病院の屋上へ行った。
沢村からもらったタバコを
吸った。
少し落ち着いた。
タバコの煙を
空に向かって吐いた時
声が聞こえた
「あなたが山崎さんですね」
振り返ると
鋭い眼光の男が
立っていた
「どなたですか?」
「面白い事を言いますね。
あなたに撃たれた男ですよ」
フィクサー・メリーズが
山崎に拳銃を向けて
立っていた
(つづく)
【フィクサーメリーズ part7】
「私はね
あなたを撃ちますよ」
「待て。。
僕は警察官だぞ」
「知っていますよ」
「それに、僕は
あなたを撃っていない!」
「それも
知っていますよ」
「だったらどうして・・」
「あなたの上司に
言われたんですよ」
「上司?」
「署長に
『刑務所に入りたいなら山崎を撃て』
そう言われたんですよ」
乾いた音
山崎は腹を抑えながら
倒れた
フィクサーは携帯を取り出し
電話した
「署長
今すぐ捕まえに来い」
倒れた山崎を見下ろしながら
つぶやいた
「山崎さん、悪かったなぁ
死なないように撃ったから
勘弁してくれよ」
そう言うと
山崎が持っていたタバコを拾い上げ
一本出した。
久しぶりのタバコを味わいながら
座り込んだ。
山崎がうめきながら
話しかけてきた。
「どうして。。。クソッ。。」
「話さないほうがいいですよ。
血が止まらなくなりますよ。
どうです?
一本吸いますか?」
タバコを山崎に差し出した
タバコの箱に番号が書かれていた
「このタバコ、誰にもらいました?
・・・・気を失いましたか?」
倒れた山崎のポケットから
携帯を取り出した
書かれた番号にかけた
電話が通じた
「電話待ってたよ」
「・・・・・」
「山崎、どうした?」
「沢村だろ?」
「お前、誰だ。。」
「お前に撃たれた男だよ」
(つづく)
「沢村さん
私の足元に山崎さんがいますよ。
死なないように撃ったんですけど
けっこう血が流れていますよ」
「お前が山崎を撃ったのか?」
「わざとらしいですね。
私が山崎さんを撃つことは、
署長に聞いていたでしょ?」
「・・・・」
「私が山崎さんを撃った場面を
うまく撮影できましたか?
向かいの木崎ビルからだと
この屋上を撮影できますよね」
沢村は
望遠レンズをのぞき続けた。
フィクサー・メリーズが
自分に向かって左手を振っていた。
そして
右手に持っていた銃を下に向け
足元で倒れている山崎に向かって
何度も撃った。
(つづく)
沢村は望遠レンズをのぞき続けた。
数人の警官が
フィクサー・メリーズを
捕らえた。
病院関係者が山崎を
どこかへ運んでいった。
沢村は電話をかけた。
「すまない。。
山崎が死んだ。」
「大丈夫。
死んでいないわよ」
「この目で見たんだよ。
山崎が何発も撃たれた。
フィクサーに。」
「しつこいわね。
大丈夫って言ってるでしょ。
お父さんはそんなことしないわ。」
「キミの父親は
これまでにも何人も殺している。」
「そうかもしれない。
だけど、山崎さんは殺されない。
絶対に殺せないわよ。。」
(つづく)
三ヶ月に一度
娘が面会に来てくれる。
本当なら
先週の木曜日が面会の日だった。
だけど
娘は来なかった。
その代わり
誰かが面会に来たようだ。
いつもの面会室ではない
別の部屋に通された。
刑務所長の部屋。
ソファーに男が座っている。
あの家に住んでいた頃
何度か見かけたことのある男だ。
「お久しぶりです。
以前ご挨拶させて頂きました、
阿倍野署の警察署長、玉木です。
とりあえずお座りください。」
座らなかった。
もちろん、目も合わせなかった。
夫の知り合いだから。
「時間も無いので、手短にお伝えします。あなたの旦那様が警察官を撃ちました。あなたもご存知の警察官です。」
つい、目を見てしまった。
署長の玉木はニヤついている。
「驚いたか?
その顔が見たかったんだよ。
バカ女が。つらいだろ?
息子が撃たれたんだからな。」
(つづく)
警察所長の玉木が
なにか話を続けていたが
なにも頭に入ってこない。
あの子が生きているのかどうか
それだけが気になった。
扉が開いた。
夫が入ってきた。
「会長、どうぞこちらへ」
夫は玉木の横に座った。
そして
なにも言わずに
玉木の顔をテーブルに叩きつけた。
(つづく)