やさしさ
「ここで働いていたのか」
「・・・・帰れよ」
「終わるまで待つよ
そのあとメシでも行こう」
「・・・・・」
「待ってるからな」
夜の12時
小さな居酒屋に入る二人
「母さんから聞いたよ」
「・・・・・」
「コレ、使えよ」
「いりません」
「頼むから、使ってくれよ」
「自分で働いて
お金を貯めてから行きます」
「頼む」
「いりません」
「・・・・・」
「何をしているんですか・・・」
「一度くらい
父親らしいことさせてくれ
頼む・・・・」
「やめてください!
顔を上げてください!」
「頼む、この金を使ってくれ
こんなことしか、今はできないんだ」
「・・・・・」
「頼む」
「・・・・父さん」
「そうか!使ってくれるか!
ありがとう、ありがとう。。
さぁ、呑もう!呑もう!」
工場を失い
家族から去り
数年ぶりに現れた父親が
必死に工面したこのお金の重みを
息子は知っていた
だからこそ
受け取った
そして
今
遠い国で
ピアノを奏でる
この音色が
父に届くことを
願いながら